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古典落語「サウナこわい」

キャンタマ 「おれたちが暮らすアストルティアは、何をするにも金がかかるもんだから『カネトルティア』なんて揶揄されちまってる。実際、本来の冒険そっちのけで職人がんばってゴールドを稼いでいくしか生きてく道がねぇ。ホントにこわい世界だぜ…。ちなみにさいほう職人のおれは数字の2がこえぇ。」

おいなり 「防具職人のおれは、ルフの盾の出品張り付きがこえぇ。1G下げとか壁とかマジ勘弁だぜ。」

ポコティン 「ランプ職人のおれは、パル埋め尽くしがこえぇ。踊りガードが270%あったところでどうしろと!」

キャンタマ 「そうだなどれもホントこえぇよな…。おいティンコ、お前さっきからずーっと下向いて黙ってるが、なんかこわいものはねぇのか?」

ティンコ 「えっぼく??そんなものぼくにはないなーー。選ばれし種族であるドワーフは、そこらの種族とは出来が違うんだよね。だからぼくにはこわいものなんて一切ない!!」

キャンタマ 「カビダンゴが言うに事欠いて選ばれし種族とは笑わせるな!!でも何かあるだろうよ!ツボ職人のお前さんなら、例えばおもさ錬金とかこわくないかい?」

ティンコ「あんなものは緑の錬金石の実装で多少失敗しても収入的には何ともないね。りっきーは神。さいほうだって終盤の寄せの段階で2ができちゃうのは手順を考え直したほうがいいよ。手順がちゃんとしてれば回避できるもんだし。あとバザー張り付きなんて時間効率を考えれば愚の骨頂だし、ランプは商材見極めたら淡々と回して確立を収束させるだけのチョロゲー。」

キャンタマ 「っはーー、本っ当にしゃくにさわるやつだな!じゃあいいよ、職人じゃなくてもいいから他にこわいもの言ってみろよ??あ??」

ティンコ 「おーこわ!食い下がるねーー?こりゃもう聞くまで帰らせないぞっていう強い信念みたいなものを感じるよね。オーケーわかった仕方ない、そこまで食い下がるならぼくも観念した、教えましょう。教えてあげましょう!」

キャンタマ 「」

ティンコ 「ぼくはねぇ…サウナがこわいんだよね。」

キャンタマ 「はあ??サウナってあれかい、銭湯とかジムとかによくある、あの熱い部屋のことかい?」

ティンコ 「そうなんだよ、言いたくないけどぼくは本当はねぇ、サウナがこわいっていうとても情けないドワーフなんだよ。サウナがこわいもんだからTLで『○○サウナでととのったー!』なんていうツイートを目にしただけで、心臓が『ンドッドッドッドッ』って裏打ちを始めるんだよ。ただただ熱いだけの部屋に全裸のおっさんがひしめいてるとか、意味が分からな過ぎてあんなとこにいたらきっと死んでしまうね。もうサウナの前なんかを通っただけで足がすくんで動けなくなっちゃうから、どんなに遠回りしてでも避けて歩いているんだよ。ああ、こんなにサウナのこと話してたら頭が痛くなってきたよ、もうだめだ、今日はもう先に寝させてもらうよ。おつでしたーー。」

そう言うと梅柄の布団でスヤスヤと眠り始めるティンコ。その幸せそうな寝顔を見てイラッとする一同。

キャンタマ 「なぁおい、こいつこのままサウナに運んじまわねぇか?目が覚めたらサウナでしたーなんて状況、いくらティンコでもそりゃあびっくりするぜ!なぁに、実際死んじまったりはしねぇさ。おれたちはこいつのPSが低いせいで、いまだに常闇すら切り裂けねぇエンジョイ勢という汚名を着せられてるんだ。たまにはちょいとお灸でも据えてやろうぜ!」

うんうんとうなづく一同。そして起きる気配もないティンコを、三人でサウナまで運んだのです。いつ起きるかな、と三人でワクワクしながら窓ガラス越しに様子を伺っていると…

おいなり 「おいおいあの野郎!起きたと思ったら泣きながらサウナの上段に登ってやがるぜ!サウナは上段と下段では10℃も20℃も温度が違うっつーのに、あいつそんなことも知らねえのか!?いや待て、サウナのなかでも一番熱い最上段に行くなんて、あいつサウナがこわいなんてのは嘘なんじゃねーのか!??」

憤った三人がサウナ室になだれ込みます。

キャンタマ 「おうおう、ティンコちゃんよぉ!お前サウナがこわいってウソつきやがったな!サウナがこわけりゃそんな最上段なんかにゃ行かねえはずだ!」

ティンコ 「これはちがう!起きたらサウナだからこわくてこわくて寒気がしちゃって、自然と上段に登っちゃっただけ!あああ熱いこわい寒気がする!!!」

キャンタマ 「ほっほーう、どうやらウソじゃねぇようだな。そんなに寒気がするってんならティンコ、このサウナ室をもっと熱くさせてやるよ!」

そういって三人が取り出したのは、水がなみなみと汲まれた桶とひしゃく、白樺の若木を束ねたもの、バスタオル。不意をつかれたティンコが目をぱちくりさせていると、キャンタマはおもむろにサウナストーンに水をかけ始めました。

キャンタマ 「サウナストーンに水をかけることで生じる蒸気のことを、サウナの本場フィンランドではロウリュと言うんだよ!サウナ室内の温度は変わらないのにロウリュによって室内の湿度が上昇することで、相対的な体感温度が爆発的に上がるんだよおお!こいつでせいぜい暖まりやがれティンコおおお!」

そう叫びながらキャンタマはどんどんサウナストーンに水をかけていきます。気が付けば桶の水はもう空っぽ。すると今だと言わんばかりにおいなりが、白樺の若木を束ねたものでティンコを叩き始めました。

おいなり 「こいつはヴィヒタといってな、サウナ中にこいつで全身を叩くことで血行を良くして更なる発汗を促すという、これも本場フィンランドではおなじみのサウナ入浴法だ!あと物理的にも痛いだろう!?ほらほらもっと血を流せティンコおおお!」

そんな異様な光景のなか、ポコティンはひとり静かにブォン、ブォンとバスタオルをゆっくり回し、サウナ室内の空気を循環させていました。

ポコティン 「…仕上げはこいつだ!バスタオルで仰ぐことで生じる、サウナ先進国ドイツではアウフグースと呼ばれるとびきりの熱波をお前に送ってやる!!これでお前の汗を絞りきってやんよー!!」

そう言ってポコティンは、ティンコめがけてバスタオルをバッサバッサと振り始めました。強烈な熱波がティンコに襲いかかります。

ティンコ 「うわあああ!こ、こわくて震えが止まらねぇよおお!もっとだ、もっと熱波をくれぇええ!」

そう叫びながらティンコは延々とおかわりを要求し続けました。そしてそれに応えるポコティン。しばらくするとさすがの三人もサウナ室内の熱気にやられ、倒れ込んでしまいました。薄れゆく意識のなかでキャンタマがティンコに問いかけます。

キャンタマ 「お、お前…こんなにサウナを満喫しやがって…やっぱりサウナがこわいってウソをついてやがったなぁ…!?最後に教えてくれ…、お前は本当は、何がこわいんだ…?」

ティンコ 「今は……キリッと冷たい水風呂がこわい。」